今回は、最近出た大会の将棋について。印象に残っているので自戦記を書きました。
強敵との三連戦
初手から
▲7六歩 △8四歩 ▲7八飛 △8五歩 ▲7七角 △3四歩
▲6六歩 △6二銀 ▲6八銀 △4二玉 ▲4八玉 △3二玉
▲1六歩 △5二金右 ▲5八金左 △5四歩 ▲5六歩 △3三角
▲5七銀 △2二玉 ▲1五歩 △4四歩 ▲3八玉 △3二金
▲2八玉 △4三金右 ▲1八香 △1二香 ▲1九玉 △1一玉
▲2八銀 △2二銀 ▲3六歩 △5三銀 ▲4六歩 △4二銀
▲4七金 △3一銀右 ▲4八銀 △2四歩 ▲3八金 △2三銀
▲3七銀左 △2二銀 ▲2六歩(第1図)
この将棋は関東の大会での一局。お相手は奨励会三段経験のアマ強豪。私はこの対戦の2つ前から奨励会三段経験者と当たって勝ち上がっておりこれで三連戦。流石関東はレベルが高いと思うのと同時に自身の引きの悪さにもイヤになっていました・・・(笑)
さて、戦型は私の先手三間飛車穴熊に対して相手も居飛車穴熊に組む相穴熊へ。私は、普段は先手で振り飛車、それも振り飛車穴熊は千日手になりやすいため指さないのですが、この大会は持ち時間がかなり短く、トーナメントを勝ち上がるにはかなりの対局数を指さないといけないので、今回は、序盤で考える部分が少なく、終盤が比較的分かりやすいこの形で行こうと決めていました。端歩の位を取って穴熊にしているのは欲張った工夫ですが、先手番だということもあり十分通る主張かと思って指していました。
逆襲
第1図から
△1四歩 ▲同 歩 △同 銀
▲同 香 △同 香 ▲1七歩(第2図)
相手の方は、無難に組み合うのではつまらないとみて端から逆襲をしてきました。第2図からは△1二香車が本線で、それが最善手でした。対して▲1八銀しかないですが、銀香交換とはいえ、この駒の打ち合いは、守り一方の銀に対して攻めに効きそうな1筋の香車を打ち、一歩持てている居飛車が厳密には少し得をしているかもしれません。しかしここから思わぬ方向に局面は進んでいきます。
知らない街
第2図から
△8六歩 ▲同 歩 △8七香!?
▲9八銀!?!?
8筋を突き捨てて空いた空間へまさかの香車打ち。第2図で相手が小考されていたのでもしかしたら何かしてくるかと思っていましたが、実際に指されたのには驚きました。この手には
- 振り飛車の陣形に埋まっている8筋の桂香を拾って、薄くなった8筋からの飛車の成りこみ(場合によっては△8四飛車~△9四飛車もある)
- 得した香車を1筋に打って、玉側の端の完全制圧。
という2つの狙いがあります。
9筋の端歩が突いていれば桂と逃げられるのですがこの将棋は玉側に手をかけた序盤戦だったので間に合っていません。そのため、ここでこちらも小考をし、異筋には異筋と、▲9八銀打ちで対抗することを決断。この2手の応酬は今までの将棋人生でも全く経験がないため、なんだか知らない街に迷い込んだような気分でした。
余談ですが、この2手の応酬の際にあまりに奇妙な手順だったので対局中に一人でニヤニヤ笑っていたので周りから見たらとても不気味だったと思います・・・(汗)
出世の銀と反撃
第3図から
△8九香成 ▲同 銀 △4二角 ▲8八飛 △7四歩
▲7八銀 △7五歩 ▲同 歩 △7六歩 ▲6八角 △7二飛
▲6七銀 △7五飛 ▲7八歩 △7四飛 ▲1六歩(第4図)
△8九香成では、本当は△8八歩と打って駒得を狙いたいのですが、以下▲8七銀、△8九歩成、▲9八香車で取れる駒がないため続きません。
仕方のない△8九香成ですが、以降こちらは相手の手に乗りつつ▲7八銀~▲6七銀と活用できて全く不満がなくなりました。△7四飛と飛車の位置を整えたところ、ここでは△1五歩と我慢されたほうが嫌でした。▲1六歩が形勢有利を確立する1手で△1二香車と打っていない脆弱さを突いています。後手は味良く次の▲1八香車~▲1五歩の反撃を受ける手がありません。
銀得は負けフラグ?
第4図から
△7三桂
▲1八香 △2三銀 ▲2七銀 △2二玉 ▲8九飛 △3三桂
▲1五歩 △同 香 ▲1六歩 △同 香 ▲同 銀 △1四歩
▲2八銀 △9四歩 ▲3七金寄 △9五歩 ▲1七香打(第5図)
▲1八香 ~▲2七銀 ~▲8九飛と陣形を整備してから待望の▲1五歩を敢行。これで駒割りはこちらの銀得に。この時、昔知り合いが「銀得は負けフラグ」なんてことを言っていたのを思い出しました。これは銀を得する時は大抵別のどこかで相手に主張を作られているからそこまで優勢じゃないという意味なのですが、今回の将棋の場合は明らかに居飛車側に主張がありません。更に▲2八銀 ~▲3七金寄 ▲1七香打と玉を固めつつ端からの更なる攻めをみて大優勢に。また、持ち時間でも相手が秒読み、こちらはまだ10分残しており、全てにおいて優勢だったのですが・・・
駒得の活かし方
第5図から
△6四歩
▲5九飛 △6五歩 ▲5五歩 △6六歩 ▲同 銀 △6七歩
▲5七角 △7七歩成 ▲同 歩 △6五桂打 ▲7五銀 △同 角
▲同 角 △同 飛 ▲1五歩 △7七飛成 ▲1四歩 △同 銀
▲1五銀 △2三銀 ▲1四銀 △同 銀 ▲同 香 △3一玉(第6図)
相手の方は、このままではジリ貧と見て△6五歩と動いてきました。△6五桂打に単に角を逃げると△6八歩成から△6七と金と駒損を回復しようとする意図があります。その展開もありますが、駒得に固執して手番を握れないことが不満と見ました。ここで▲7五銀が我ながら冴えた一着。△94飛車ならそこで▲3九角と逃げておいて、△6八歩成に軽く▲5六飛車と浮いておけば、当たりになっている駒を全て逃げながら捌けます。そのため△7五同角は仕方ないですが、そこでようやく手番を得ることが出来たので▲1五歩と反撃に。
▲7五銀~▲1五歩は、得した駒を還すことによって手番を得るというテクニックで、駒得した場合はその得をキープしたりより駒得をするだけでなく速度に変換することも可能ということを体現した手順でした。
△3一玉まで引かせて、あともう一発パンチが入れば相手も倒れるところまで来ました。
切り返しの連続
第6図から
▲5四歩 △5八歩 ▲3九飛 △7五角 ▲7四歩 △1七歩
▲同 香 △1六歩 ▲同 香 △1七歩 ▲同 銀 △4八銀
▲5三角 △同 金 ▲同歩成 △3九銀成 ▲同 金 △5三角(第7図)
相手視点から見ると、逆転の筋は
- こちらの飛車を抑え込む
- 5筋以降から玉を抜け出して中段玉で泳ぐ展開にする
になります。そのため、△5八歩から攻防の△7五角は妥当な手順ではありましたが、▲7四歩が痛い一着に。しかし代えて△5四金でも▲5五歩と拠点をつくられ、△8四角では5筋の守りに効いていないのでやむを得ませんでした。
相手の1筋の歩の連打は覚えておきたい手筋で、玉の守備駒を上ずらせることによって守備力を低下させて少しでも王手がかかる形にしています。そして、結果としてこの手が最後に大きく役立つことになります。△4八銀は期待の反撃ですが▲5三角 が狙いの切り返し。この手に対して△同角だと▲同歩成から△4八に打った銀を取られることになります。そうなっては堪らないので一回飛車を取ってから△5三角と手を戻しました。ちなみにここで△3九角成だと、5三のと金を活かして▲2二銀で即詰みになります。
ここまでは良かったのですが、次の一手が躓きの第一歩でした。
仕留める力
第7図から
▲2八金 △3九銀 ▲5二金 △7五角 ▲5三銀 △同 角
▲同 金 △5七飛(第8図)
▲2八金が逸機。王手のかからない形を作って余す形をつくったつもりでしたが単に▲5二銀としておけば明快に勝ちでした。
将棋の終盤は仕留めないといけないところで決めきれないと逆転のスキが生まれます。余して勝つ技術も勿論大切なのですが、トップの中のトップほどこういった勝ち将棋を簡単に仕留めることで安定した結果を残している印象です。第8図からも明快な勝ちがありますが・・・
悪癖
第8図から
▲1三角 △2二銀 ▲同角成 △同 玉
▲1二香成 △3一玉 ▲2二銀 △同 金 ▲4二銀 △3二玉
▲2二成香 △同 玉 ▲4三金(第9図)
▲6四角と駒を渡さずに詰めろをかければやはりわかりやすい勝ちでした。相手は少ない手駒ではこちらに迫る手はありません。
本譜は▲1三角と駒を沢山渡しますが必至をかける手順を選ぶことに。こちらがZだと勘違いしている、相手の竜が影にもなっていると思って楽観をしていました。これは完全な悪癖で、▲4三金の瞬間に相手の方の目の色が大きく変わりました。それと同時に自分の認識の大きな誤りに気付くことになります。
悪癖その2
第9図から
△2八銀成 ▲同 銀 △1七香
▲1八歩 △同香成 ▲同 玉 △1七歩 ▲同 桂 △2七銀
▲同 銀 △2九角以下数手で後手の勝ち
△1七香~△1七歩が軽視していた手順。指された瞬間に体中から冷汗が出るのを感じました。通常の穴熊なら1八に香車がいるのでこの筋はありませんでした。気づけば相手の持ち駒は潤沢。必至をかけるために渡した駒達がこちらの玉を詰ますために牙を向いています。
…しかし、実際には詰んではいなかったのです。△1七歩に同玉なら不詰めでした。
- △2五桂 ▲同 歩 △2六角 ▲同 玉 △2五歩 ▲1五玉 △1四歩 ▲同 玉 △2三金 ▲2五玉 △2四歩 ▲2六玉
- ▲同 玉 △3七飛成 ▲同 桂 △2七金 ▲同 銀 △3九角 ▲2八香 △同角成 ▲同 玉 △3九銀 ▲同 玉 △7九龍 ▲4九金
どちらの変化も危険極まりないですがギリギリ詰んでいません。
ぱっと見で即詰みの長手数の王手をかけられてしまい、これまでの流れが一気に変わり、読みの蓄積がない中で具体的な読みが追い付かず、気づくことが出来ませんでした。こちらも悪癖、何よりも読みの力が足りませんでした。本譜は不能だと思っていた竜を△6八歩成と効きを通したり、△7九竜と潜る手を伏線に△2七銀~△2九角と鮮やかな捨て駒で即詰みコースに。終盤の認識の甘さと読みの精度の低さが生んだ大逆転負けでした。
終わりに
この将棋は勝てばベスト4だったため手痛い逆転負けでした。しかし、強敵との3連戦によって、自分もトップ層とも十分戦えることを知り、大きな自信になりました。ただ、今年はどの大会でも準優勝~ベスト4ばかりで全国大会に出場できていないので、修行の一年と思い、また積み重ねていこうと思います。
コメント